今回、2021年にインド現地で実施したサーベイの結果をご紹介します。何についてかというと、かなりリアルなおサイフ事情と職業感についてであり、その一部を抜粋して公開します。
実施において、以下の条件で実施しております。
なお、現時点で回答に対しての追加質問や調査はしておらず、疑問が残る点はどうかご了承ください。
- ビハール州ガヤ、カルナタカ州バンガロール の2拠点で実施
- 49名(有効回答47名)に対して対象はランダムに直接的な聞き取り調査を実施
収入と支出の概要は?
それぞれの拠点の一エリア内での聞き取りを実施しています。
ところでバンガロールと言えば、インドのシリコンバレーとも呼ばれるくらいのIT産業の集積地であり、世界的なIT企業や現地のユニコーン含むスタートアップ、日系でもまだまだ少ないながらIT系の企業やトヨタが拠点を置く場所です。
一方のガヤは、皆さんも何となく縁がある方も多いかも知れません。ブッダガヤと呼ばれる村があり、その名の通りブッダの聖地とされており、悟りを開いたとされる場所です。いわば仏教の聖地でもあるわけです。大きな菩提樹、仏教系の寺院が多く存在しています。
そんな2つを持つ州は、経済観点での前提条件が大きく異なります。国の統計から2021-22年の州ごとの平均年収を見てみると、バンガロールのあるカルナタカ州が265,623ルピー、ガヤのあるビハール州が49,470ルピーです。少し分かりにくいかも知れないので、以降の通貨は1ルピー=1.8円のレートでお伝えします。しかし、驚くことにすでに州が異なるだけで5倍以上の差が生じています。例えば東京と大阪で5倍の差が生じたとして、それが大阪が勝ると来たら、大阪一極集中が起きてしまいそうですね。
- バンガロール州=478,121円/年
- ビハール州=89,046円/年
ちなみにインド全体、かつホワイトカラーもブルーカラーも含め就労人口全体で見た平均収入は、National Statistical Officeのデータによると 172,000ルピー(309,600円)です。つまり、バンガロールは平均を遥かに上回り、ビハールはその逆で遥かに下回っていることがわかります。
その上で今回の結果を見てみるとバンガロール は月収44,178円で年間530,136円、ビハールが月収14,684円で年間176,208円とともに平均を上回っているもののその際は全体平均の差と似た値となっています。経済成長著しい国においては、統計集計時点からさらに収入も含めて伸びたと捉えることもできます。
州ごとに経済事情が異なるのは企業やその地域の絶対的な発展度合いにもよりますが、一方で支出額を見ていただくと収入ほどの差はありません。事実、一部の都市部では不動産価値が高騰したり外食や外国人や富裕層向けの施設こそその物価たるや驚くものではありますが、いわゆる庶民の生活を取り巻く物価はインフレーションは常に一定あるものの必需品周りは決して高いわけではなく、また、州ごとに大きく差が出ているわけではありません。
ここでは一つ、可能性と考察も添えておきたいと思います。前述の通りで、ビハールは全体で見ても収入が低く、これは各所にいたる公共サービスや教育、その他さまざまな面でもその品質が低いとされています。以前の記事でも記載しましたが、教育と貧困は負のスパイラルを生みます。そこでガヤの調査結果を見てみると、以下のようなことが考えられます。
- 調査においては、ある月の聞き取りであり、一部支出を月案分しているが、それでも月次収支が赤字という平均結果となっており、家計の管理ができていない(知識が十分でない)家庭が一定数存在する。
- 世帯当たりの人数が顕著に多く、労働力としての子どもや無計画さをもつ可能性がある。
支出を占める各種費用の構成比
ここで、実際にどういったことにお金が使われているかも見てみたいと思います。絶対額こそ決して大きくないものの、食費や教育費の比率は高く、また教育費が食費同じくらいの支出比率があることは一つ特徴的と言えます。
ただ、何より目につくのは衣装費です。あえて被服費などと書かなかったのには理由があり、まさに”衣装”にかける費用だからです。その最たるものが結婚式や儀礼に必要な衣装であり、ここが占める割合が極めて高いのが平均です。いわゆる貧困層こそそのような目的に割ける余裕もありませんが、一定の仕事をし、収入がある家庭ではこうした実態があります。もちろんこれはこの国の伝統や文化、宗教的な拝見から重要と考えられているものではあるものの、決して余裕があるわけではない、ましてや家計が赤字になってでも捻出すると言うのは理解を示す必要のある価値観なのかも知れません。
ちなみに、日本の場合は手取りの1/3が目安などと言われる家賃についてはここでは書かれておりません。その理由としては、ほとんどの場合は政府が無償で提供している区画への居住であったり、長らく住んでいるいわゆる実家を活用しているケースがほとんどで、実質的に家賃に相当する費用支出がないからです。仮にここに住居にかかる費用が掛かってきた場合にはより生活は余裕のないものとなることは想像に容易いです。
参考までに、家賃を払う場合に3人家族で住む場合に家賃相場がどれくらいかと言うとバンガロールの場合、5,000円〜上は700万円以上の文字通りマンションなども存在します。
英語力と収入の関係
続いて、収入と英語力についても見てみましょう。結論から言えば、というより見れば分かりますが、ガヤは想定通りの差が生まれました。つまり、英語ができる人ほど収入が上がるというものです。とりわけガヤは日本人こそコアなファン以外は知らないのかも知れませんが、前述の通りの土地柄ゆえ諸外国の観光客が訪れる村でもありますし、州としても最貧州でありながらこの村に対しての観光産業に期待するところは大きいです。
もう一つ、バンガロールでは見られなかったものが収入差とは別の観点であります。ガヤでは全く英語を理解できないとする人が調査した対象21名のうち9名、つまり4割強がそれに該当しました。必ずしも全く同じ属性、セグメントから調査したというわけではないものの、こうしたところからもビハール州における公教育の遅れや劣りが見られます。(※日本じゃ当たり前かも知れませんが、インドでは片言レベルでもおおよそ3-4億人が話せると言われています。)
一方で、バンガロールでは予想に反して逆転してしまいました。してしまったという表現に意図はないですが、考えられることとしては、①英語力の差が実態として収入差に相関しない ②英語力が自己申告のため、実態とは乖離がある(例えば全員ほとんど差がなくおおむね英語を理解している)などでしょうか。
ちなみに、連邦公用語とされるヒンディー語の読み書きという観点でどれくらいのレベル感か?という聞き取りも行っております。その結果、ガヤではほぼ全員が問題なく、バンガロールではおおよそ30%が難ありと回答しました。しかしながら、連邦公用語とはいえインドの州ごとの公用語は様々でガヤの場合はヒンディー語でありながら、バンガロールではカンナダ語という全く別の言語が使われます。そういう意味では、7割のバンガロールの回答者は、カンナダ語に加え、ヒンディー語と英語ができるということが言えますし、難ありと回答している人たちが生活や仕事上で難ありとするケースは極めて少ないのです。
さて、単純に収入だけの話をしていても深くイメージがつきづらいと思いますので、続いてはどういった職業についているかや持ち合わせているスキル、そして職業観や金銭感覚に迫ります。
職業観の実態
この通り職種は様々です。どうしても申告のあった職種のさらに先までは実態を把握できないところもあり、会社員と個人事業の場合、日雇い職、無期•有期雇用などの線引きはあいまいです。ただし、例えばバンガロールで建築関係と記しているものやガヤで清掃関係と記しているものは実際の聞き取り前月の収入が0といったケースもあり、明確に会社員と記載しているものを除けば極めて不安定な収入であることを意味しています。また会社員であるほうが安定的かつ高い収入を得ているというのは、とりわけバンガロール側では顕著にみられます。
ちなみに全員に持ち得ているスキルについても聞き取りを行っており、それぞれから回答は得られています。しかしながら、客観的に仕事や収入に直結するスキルを持っていると言えるのはバンガロールで40%ほど(マーケティングやプログラミングスキル)、ガヤでは10%を切っていました。また、持っているスキルもしくは特技の範疇のものと現在行っている仕事は必ずしも一致していないという傾向が見られました。これについては日本も同じようなことは言えますが、少なくとも彼らはどういったスキルがあればどういった仕事に就けるか?や、何をすれば収入をさらに上げることができるか?については明確な情報や理解には乏しく、努力の矛先や生活の質の向上の手段についてはかなりぼんやりしているようでした。
仕事の見つけ方についても見ておきたいと思います。日本の場合、これもまた多様化してきているので一括りには言えませんが、大きく分ければ職業安定所・求人広告(ネット及び紙)・人材紹介・知人介しての紹介・各種WEBサービスといったところでしょうか。インドではかなり限定的かつ偏りがあります。
ちなみに、インド側のデータで紹介と括っているのは知人や親族からの紹介を意味します。バンガロールでは、会社員も多いことからWEBサービスを介した馴染みある職の見つけ方もあれば、人からの紹介も多くあります。一方で、ガヤを見てみるとほとんどが人からの紹介になります。WEBサービスや人材紹介は当然その構造上情報の非対称性は存在します。それでもまだ機会の多さや透明性では紹介よりも幾ばくかは勝るようにも思えます。
何よりこうした形式での職業選択は、多くの場合収入の安定化や昇給などが見込めないケースが多く、もちろんのこと大きく搾取されるケースもままあります。
最後に
インドではマクロの統計含めて公式に取られている、もしくは公表されている情報というのが極めて少ないです。それがなぜか?という疑問については別の機会に紐解いていきたいと思います。
ご存じだったこともあれば、意外な事実と新たに知ったこともあるかも知れません。ただ、何となくの概況はニュースや各種メディアで伝えられていたりもしますが、いわゆるファクトが少ないゆえ一次情報の希少性の高さはもちろんのこと、それ自体が広く知られることもとても少ないのが実態です。故に、いつも読んでいただく皆さまからも「こういう情報を集めてほしい」「こういう調査で何が原因なのか調べてほしい」と言った気づきや要望があればぜひお聞かせください。
さて、急速は経済成長と裏腹に、教育を十分に受けていない人々や地方とされる地域では情報の不足やそれにリーチするノウハウの欠落が目立つ結果となりました。少々長くなりましたが、少しでも「そうなんだ〜」と実態を知るきっかけにしていただければ幸いです。
次回の調査は、「インドの女性にまつわるさまざまな習慣や課題と実態」です。目下研究調査中ですので、年明けには公開できると思いますのでお楽しみにしてください。
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